2024年4月、渋谷区文化総合センター大和田(渋谷駅西口)にて開催中の『半・分解展』に行ってきた。
半・分解展とは
『半・分解展』は長谷川さんという個人のコレクターが蒐集した100年以上前の貴重な衣服を展示し、見たり、触ったり、レプリカを着たりして楽しむことができる体験型の展覧会だ。
半分解展公式サイト
コレクションの一部は、半身だけほどいてパーツに分解したものを並べて展示している。「半分、分解する」ことから『半・分解展』というのが名前の由来だ。
分解したパーツから型を取り、再解釈して作り上げた型紙を期間限定で販売もしている。
現物を見て楽しむだけでなく、自分の手で作る楽しみもあるのが『半・分解展』のすごいところだ。
過去に見た展示では紳士服が大半であったが、今回はなんと婦人服が大量に展示されると聞いて、開催を楽しみにしていた。
ヴィクトリア期のドレスの特徴
ヴィクトリア女王の在位期間は1837年〜1901年。
女王は1861年に夫・アルバート公を亡くしたのち、長きにわたって喪に服し、黒い服ばかりを着ていたといわれる。当時の英国では黒い服が流行した。それゆえに半・分解展でも黒いドレスがたくさん。
ベルベットの生地に豪華な模様が浮き上がっている。こんな生地、どうやって作るんだろう……。
ヴィクトリア期のドレスといえば、極端にくびれたウエスト、ふくらんだ袖。「クリノリン」と呼ばれる特製の骨組みを入れてバルーンのようにふくらませたスカートが特徴だ。
バストからウエストにかけての逆三角形の形が、不自然なほどに「女性らしさ」を主張している。
このドレスは小さくて、5〜7号くらいかな? 当時の人は今より小柄だったということか。もしくは少女の服か。似たようなサイズのドレスがいくつもあった。
あちこちがすりきれ、脇の下には複数継ぎがあてられている。
普段着ってことかな?
アームホールが随分下のほうにあるし(こんなのでは腕は上がらない)スカートのふくらみからして、貴婦人の服だったんじゃないかと思うけど……。
公式のキービジュアルとして掲載されていたドレス。
インド綿のような薄手の生地で、柄を裾に生かしたレイヤードスタイルだ。
インド綿がもたらされたのは17世紀だから、ちょっと時期が合わないようけど、こういうプリント、18世紀の英国でも作っていたのかな?
今回の展示の中で私がもっとも興奮したドレスがこちら。
グリーンのベルベットの上に、とうもろこしみたいな模様が入っている。この袖の形、ヴィジット(キモノから影響を受けた羽織もの)だろう。
後ろ姿もかっこいい!
分解されていた。
タッセルみたいな房飾りの一つ一つが芸術品。
ペイズリーのガウンも素晴らしかった。一目で高級品と知れる繊細さと洗練。
レンガ色の裏地に目の覚めるようなトルコブルーを持ってくるなんて、組み合わせが天才的じゃない?
胸元には同色で細かく畳んだタックフリルを留め付けている。
ウエストを紐でぐるっと。キモノ風だね。
当時大流行したオリエンタル趣味を集めた一角だ。
芸術的な装飾
細部の装飾を見ているだけでも、いちいち鑑賞しがいがあって、楽しかった。
一見地味なカーキ色のドレス。見事な刺繍に「おおーっ」となった。
和風のモチーフで、ふっくら立体的に刺繍されている。
樋口愉美子先生のようなハイレベルのアーティスト(もしくは職人)の手によるものだろう。
鶴だか鷺だかみたいな鳥と、百合の花の周りには蝶々が舞っている。くるみボタンにも刺繍が。
何色もの糸を使用して同系色でまとめているのがニクいよね。どんな粋人が作らせたものだろうか……。形としてはシンプルで、よくあるコートワンピースのような形だが、袖付けとスカートの形が現在と違う。
縦に連なるハート型のモチーフは、ビーズ刺繍によるものだ。
ふくらんだ袖のドレスは、身頃のタックと袖後ろのピンタックがリンクしたデザイン。
ウエストのギャザーが超絶細かい。贅沢に生地を使用していることがわかる。
こちらのドレスは、ビーズの立体的な飾りが目を引く。ベリーのたぐいかな。
コード刺繍も幾何学的でおもしろい。こういうの、やってみたい。
ブラウンのシックなドレスに留められたカメオ。
経年変化で黄色っぽく見えるけど、象牙か、もしくは貝かなあ。
(アクセサリーにはあまり関心がないが、このカメオの使い方は素敵だと思った)
半・分解展のたのしみ方
半・分解展はチケットを買うと、期間中何度でも入場して楽しむことができる。お得な仕組みだ。
主催者の長谷川さんは、短い休憩以外いつもいるので、空いているときにつかまえて質問したり、お話を伺うのも楽しい。
今回は、土日に年代ごとの『ドレス変遷』をテーマにしたレクチャー(チケット購入制、定員あり)を催したり、13:30- 16:00- 19:00-と時間を決めて、ミニレクチャーを開催しているようだ。
ミニレクチャーは入場券だけでだれでも参加できるので、私ももう一度行けたら参加したいと思っている。
半・分解展の楽しみ方は人ぞれぞれ。私は平日の空いている時間にマイペースで見学して、装飾を中心にあれこれ想像して楽しんだ。この記事に書いた解釈が合っているかはわからない。この後、服飾史の本を読んだり、SNSで解説が流れてきたら答え合わせをして楽しむつもりだ。
初見では見逃してしまうところも多い。後から気になる点が出てくれば、また足を運ぶのも自由だ。
会期は4月24日までだから、時間はある。
本物を見て、感じて、学ぶこと。服飾の知識がその時代の歴史と重なって、後から意外なところで知識が役に立つことがあるから、おもしろい。
貴重な資料を見せていただき、ありがとうございました!
半分解展公式サイト
余談:最近の渋谷の様子
会場への行き方は、渋谷駅南改札→西口→歩道橋→首都高をくぐり、ファミリーマートを目印に地上に降りる→坂をあがって「日本経済大学」の看板の上空にプラネタリウムのドームが見えたら目的地だ。
半・分解展のたびにここを通るけど、渋谷駅は永遠に工事やってるよね……。
歩道橋の手前は柵で覆われている。
首都高がボロボロで怖い。景観が悪い。
2023年11月にオープンした新しい商業施設、渋谷サクラステージ。
クリニックやレストランなどが多く入っているようだが……採算取れるのかなあ。
100年前の服を見にくるたび、渋谷の再開発の進捗をなにげに眺めている。
次に来るときは、また様変わりしているんだろう。
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