『分解布 200年前の感動を織りあげる』&『半・分解展』再訪の感想・レポート【2021年4月】

レビュー
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noteの期間限定記事を読んだ

『半・分解展』を訪れた後、特別展示『分解布 200年前の感動を織りあげる』を手がけた上村直也さんのnoteを読んだ。

これはすごい!

200年前の高級ウールは、薄く肌触りなめらかで、しかも裁ち目がほつれない。
「こんな生地は見たことない!」と専門家が驚くような超・高品質の素材なのだ。

この生地を再現するため、上村さんが所属する葛利毛織くずりけおり工業株式会社はまず織り地を作った。このときは生成りの状態だ。
その後、生地を染め「縮絨しゅくじゅう」などの整理加工をする専門の工場へ送る。

「縮絨」というのは、毛織物に圧力や摩擦を加えて縮めることだ。厚みのある織物が「縮絨」することによって縮められて薄くなる。
「縮絨」された生地の質感は、フェルトのように繊維が詰まった感じだ。

上村さんらは複数の工場に依頼し、オリジナルの再現をめざした。noteの末尾の時点では一つの生地に25回もの縮絨を繰り返した結果、再現度は「80パーセント」。
未完成だそうだ。

試行錯誤の過程について、上村さんのnoteに詳しく書かれている。
大変おもしろいが、専門用語が多いので一読しただけではすんなり飲み込めず、ウェブで用語を調べながら二度三度と読んだ。

そして知った。葛利毛織工業の上村さんが在廊するのは4月18日まで。
それならば、またすぐに行かなくちゃ!!

特別展示『分解布 200年前の感動を織りあげる』の展示は4月16日〜18日までの期間限定で行われた。
上村さんの記事内に「常設展示」と書かれているのは上記期間中は《分解布》を常設展示・また担当者が常駐するという意味であり、現在は展示は終了している。
また、noteは記載の期間中特別価格で販売されていたが、現在は通常価格にて購入し読むことができる。

200年前の最高級ウールの手触り

幸いにも、上村直也さんから直接お話を聞くことができた。

お話に夢中で写真を撮り忘れてしまったのだが……。
200年前の真紅の上着(長谷川さんのコレクションより)を触らせてもらった。

後からTwitterを見ていて気づいたが、こちらは「ナポレオンが纏った服」と表現されている。
どういう意味だろう? 今度長谷川さんにお会いする機会があったら聞いてみたい。

手触りは非常に薄く、ビロードのようなしっとりした毛並み感と同時に、ぬめり感を感じさせる。
noteの中で「ビリヤードクロスに似ている」という指摘があったのが、なんだかわかる気がする……。

裁ち目は全然ほつれていない。

「ウールって、そもそもほつれにくいように思いますが……?」
上村さんによれば、このように薄い生地で細い糸を使って、ほつれにくく仕上げるのは至難の技なのだそうだ。

それからスワッチ(=生地見本)で試作した生地を次々に触らせてもらった。

どれもビロードのような毛並み感を保ちつつ、少し硬さがあり、薄く仕上がっている。
よく見ると、色合いも硬さも質感も、全てが違う。

一つ一つ説明を受けながら、触っていくと、素人ながらに「違い」を感じ、すごくおもしろかった!

2020年12月。全部で25回もの縮絨を繰り返して作り上げられたブルーの生地。
これが現段階の「200年前の分解布」として販売されていた(らしい)。
このとき、上村さんとお話している時点ではまぬけな私は再現生地が買えるだなんて思いもしなかった。あとでTwitterを見て、「そうだったのか!!」と思った。

制作過程を聞かせてもらい、
「どれも完成度が高くて、このままでも素敵だと思いますが、100パーセントを追求してまだまだ研究されるんですね。完成が楽しみです」
「そうですね。長谷川さんは厳しいので、まだまだ、と言っていて。残り20パーセントに到達するまでに10年くらいかかるかもしれません
と上村さんが穏やかに話していたのが印象的だった。

ウール大好き! ウールの話

葛利毛織工業は大正元年に創業。愛知県一宮市にある。ドイツから伝わったションヘル織機を使用し、手織りに近い製法で多品種の国産最高級織物を製造している。

現段階ではウェブサイトや通販サイトはないが、個人でも1mから購入できるそうだ。一番安いものは4,000円台から。
辞書のように分厚い見本帳を3冊も見せていただき、興奮した。

私が趣味で洋裁をやっており、ウールに興味があることから、ウールの扱いについても親切に教えていただいた。
上村さんが着ている上品なグレーのセットアップは自社のウールを仕立てたもの。
薄くさらさらの感触でしっとりなめらか、高級感がある。

生地の高級感は、素人でもちょっと触るだけでもわかるものだ。
私はこれまでにフラノ、サージ、トロピカルを購入して、それぞれ購入価格に対し「大体このぐらいの品質」と知っている。安ければそれなり、高ければ高いものほど、手触りはよい。
葛利さんのウールは、手持ちの生地よりはるかになめらかで上質!! ははーーっと恐れ入った。

ウールの洗濯は「押し洗い」でいいそうだ。
「水に浸けてやさしく押し洗いして、脱水はほんの数十秒だけ。干すときはハンガーでも大丈夫です。こするのと水に漬けるのをいっしょにしなければ、縮むことはありません。基本的に汚れは表面につくだけで、中まで浸透しないので。フライパンのテフロン加工と同じぐらい、汚れ落ちはいいとお考えください」

そう、ウールってすごく汚れ落ちがいいのだ。フラノでスカートを縫ってみて、実感した。
それにシワも付きにくい。
薄手の高級ウールなら、通気性もよく、サラサラしっとりして夏も気持ちいいだろう。

ぜひ購入したく、見本を見せていただいた上で、後日連絡することを約束した。

2度目の『半・分解展』

上村さんとお話した後、ちょうど長谷川さんが空いたので少しだけお話しすることができた。

平日の夕方はつねに人に囲まれており話しかける隙がなかったので、初めてのチャンスである!

質問その1:試着用《ユサール》のアームホールの内側のひだはなんですか?

ヴィンテージの《ユサール》の胸の内側には、キルティング状にふくらんだ芯地が貼られている。(←展示あり)

一方、長谷川さんが試着用作品を作る際には、芯や裏地はなしで表地のみの簡易的な作りとしている。表地だけを使用し胸部のふくらみを形よく見せるために、言わば芯地の代わりとして考え、このような形にしたそうだ。

ちなみに、会場にある試着用の大量の作品はすべて長谷川さんが自ら制作されたそうだ。(やっぱり!)テンションが上がった深夜などに一気に作ると話していた。

質問その2:《ヴィジット》の袖の内側のデザインについて。小さい袋状になっているのはなぜですか?

「袖を広げたときに、内側の丸い形が格好いいなと思ったんですが。人に見せるところじゃないし、普段は隠れているところだから、短い方が軽いということでしょうか?」

《ヴィジット》の袖の内側は、外側と同じように長くしてもいいけれども、別にその必要はない。
先ほど、着物の上にこれを羽織りたいという女性がいて、よくお似合いだったそうだ。

「なるほど、この形自体が着物の羽織りみたいなものだから……。着物の上に着るのも良さそう。着物の袖をチラッと見せて着るのもおもしろそうです」

質問その3: 《ヴィクトリアン・ラップ》の胸の装飾はコードレースだと思うのですが、どのように付けてあるのでしょうか?

コードレース自体、ヴィクトリア時代に流行っていた。同じようなレースを付けた服をよく見かける。
このラップには、編んだレースのモチーフを一つずつ外れないように、うまく縫い付けているようだ。

《ヴィクトリアン・ラップ》を作りたい

ヴィクトリアン・ラップ
ヴィクトリアン・ラップ

友人に「これを着たい」という人がいたもので、興味をもってそーっと試着させてもらった。
なにしろ、ヴィンテージ品。裏地がぼろぼろになっているので、時計などを引っ掛けないように注意した。

シルクのベルベット地で、肩に掛けるとほっこりあたたかい。
少し動いたぐらいでは肩の位置からずれることもない。
試着する前は「実用性がないただの飾り」かと思っていたが、肩を保温する効果は十分ありそうだ。

中央にはホックが付いていた。
が、ホックを掛けると裾が交差する。ふくらんだスカートに合わせるものだろうから、コーディネートによってはおさまりがいいのかもしれないが……。

「この時代に、ホックがあったんですね……」と驚いていると、長谷川さん曰く「ホックはすでにありました。むしろ、ホックだらけですよ!」

《ヴィクトリアン・ラップ》はコードレースがデザインのポイントとなっているため、似たようなレース飾りを見つけるか、自分で編むなりすれば再現できるように思う。
もしくは、刺繍レースのスカラップ部分を縁どりに使用するなど、なにか工夫すればできそうだ。

黒の刺繍のブラウス

ラップとコーディネートされた黒の刺繍のブラウスは、襟元が三つのホックでしっかり閉じられている。

この時代の女性は肌を露出しなかったというから、ほんの少しの隙間も見せないように配慮したのだろう。
1861年、アルバート公の死によりヴィクトリア女王を始め、多くの国民も喪に服したという。そのため、こんなに黒づくめのファッションが好まれたということか……。
全体像を見ると、こちらのブラウスも素敵だなと思い、撮影させてもらった。

肩からウエストにかけて極端にくびれている。ブラウスでこんな形は、見たことがない!!

全体に散りばめられた刺繍は細やかで、黒一色の中にも工夫を凝らしている。
形の美しさを引き立てる、一見シンプルなデザインが好ましく感じた。

終わりに

長谷川さん、上村さんとお話でき、感激だったし、前回試着できなかったロング丈の《ヴィジット》と《ヴィクトリアン・ラップ》も試着できて、大満足の再訪となった。

長谷川さんはときどき型紙を無料で公開したり、期間を区切って販売もしている。
(個人で運営されているため、印刷・梱包・発送の体制を整えるため期間を区切っていらっしゃるそうだ。)

次回の東京展でお目にかかる機会があれば、私も自分で制作した服や小物を身につけて行けたらいいな〜〜。

最後に。要望として、SNSで断片的に入ってくる情報やホームページの短い告知だけでは情報がやや不足しているので、小さな冊子かリーフレットにでもまとめて、展示の概要や物販の情報なんかも載せていただけたらな〜〜と思った。

半・分解展

  • 期間:2021年4月13日〜26日
  • 時間:13:00〜20:50
  • ※18(日)、25(土)は11:00開場
  • ※21(水)、22(木)は19:50閉場
  • ※26日は17:00 閉場
  • 会場:渋谷区文化総合センター 大和田
  • 住所:〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町23−21
  • 入場料:Web 3,500円、現金4,000円 
  • 展示期間中の再入場無料 中学生以下の入場無料

JR渋谷駅から行く場合は、南口改札→西口→歩道橋をまわって、約7分。

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